エンゼル

居候で二十一歳のへぼが大学を留年した。 へぼの本当の名前はミツルという。光と書いてミツル。 いい名前だと思う。 父さんいわく、ミツルは「へぼいガキ」なのだそうだ。 だからわたしも一緒になって、へぼ、と呼んでいる。 本人はなんだかんだこのあだ名を…

想像上の路地に遠足のしおりが落ちてる

となりの部屋に住んでいる21才のへぼが大学を留年した。 「酒屋のあんこちゃん、同い年なのに店の手伝いしててえらいと思う」 窓の外を眺めるへぼは、たぶん学校をやめることを考えている。 酒屋のとなりのフジナミ青果に、さいきん男の売り子がやってきた。…

船に乗る

シーズンの終わった海水浴場には、のほほんと丸い時間が流れる。 「みんな海に飽きちゃったのよ」 桂は、ひとけのない浜辺を自分の庭を歩くような足取りでどんどん進んでゆく。O脚の足は浅く弧を描いて砂を踏んだ。足跡にサンダルをはめて歩いてみたら、桂が…

【sample】渦をとびこえて

渦をとびこえて いつもよりワンフレーズ長いチャイムが、休み時間と午後の授業の境目をまたぐ。私は行方不明になった理科のワークを探して、一冊一冊、積み上がった置きベン教科書たちをのけていた。 背中にがん、と何か当たり、勢いでロッカーに頭をぶつけ…